物語

 歴史的な裁判シーンが、この映画の前半のハイライトとなる。

 1980年代、中米の小さな国グァテマラで、軍が20万人以上のマヤ先住民を虐殺し、 100万人の難民を生んだ。

 それから30年以上の時を経て、このおぞましい事件の責任を問うために、元国家指導者が大量虐殺の罪で訴追される。

写真: Daniel Hernández-Salazar

 元国家元首が、自らの国で、虐殺の罪で裁かれるという前代未聞の裁判。

 この裁判で、イニシアチブを取ったのは、女性たちの姿だった。民族衣装をまとった姿で、家族を虐殺され、自らもレイプ被害に遭った先住民の女性たちが命を賭けて証言するその法廷で、その「人道に反する罪」の首謀者として、リオス・モント元大統領を裁く裁判長も女性。

 一方で、そのリオス・モント元大統領を「良き父であり、虐殺はでっち上 げ」と主張する美しく着飾った白人女性の娘スリ・リオス。

写真: Daniel Hernández-Salazar

 「500年」という作品タイトルは、コロンブスがアメリカ大陸に到達してから500年を経た現在、そこにもともと住んでいた先住民が、どのような状況に あるのかを問いかけるものであり、非営利映画制作団体 Skylight社が制作した 前作「Granito: How to nail a Dictator (グラニート・独裁者を追いつめろ)」の続編とも言える。

 前作では、1980年代のグァテマラでの虐殺事件の責任を問うために、スペインでの審判を求める運動をカメラが追った。しかし、その裁判で、リオス=モント元大統領は有罪を宣告されたにもかかわらず、グァテマラ当局は、引き渡しを拒絶する。

 「ならば、この犯罪はグァテマラ人が自らの手で裁かなくてはならない」

 人権運動家らの動きで、ついにはじまったグァテマラでの歴史的裁判が、この映画の前半の見どころとなる。

 とはいえ、前作とは登場人物は入れ替わっており、前作を知らなくても、十分に興味深く、かつ、スリリングに物語は展開する。

 そして、息詰まる法廷闘争の末、裁判長は、虐殺の存在と大統領の関与を認定し、禁固50年の刑を宣告する。

 国家元首が自国の司法制度で、「人道に反する」罪で裁かれたのは、ラテンアメリカのみならず、これが世界で初めてのことだった。

 それは、先住民の人々にとっては感動の一瞬だった。

写真 : Saul Martinez

 しかし、リオス・モントの後継者であり、虐殺の存在を否定する現大統領(当時)オットー・ペレス =モリーナをはじめ、グァテマラを寡頭支配する人々は、この裁判の結果に激しい異議を唱え、その結果、この歴史的判決は、憲法裁判所で無効とされてしまう。

 しかし、それでも先住民の人々の闘いは終わらない。

 やがて明らかになったオットー・ペレス=モリーナ大統領の汚職問題は、ペレス=モリーナ自身も虐殺に関わっていた疑惑もからみ、先住民だけでなく、都市の住民、世代を超えた人々を巻き込んでの、大統領辞任を求める国民的な運動へと広がっていく。

写真: skylight.is

 日本ではほとんど知られていない、この歴史的裁判とその後に起こった一連の出来事、さらに、それにかかわった人々の姿をとらえた迫真の映像の迫力とともに、何度でも立ち上がる人々の姿は感動的である。